遥かなる:エピソード2
滅びの惑星のヤクイ
*
幾つもの文明がこの惑星の上で繁栄と崩壊を重ねていた。
環境破壊はすでに留まる所を知らず、過去の文明の証を飲み込んでいった。
今残る哺乳類たちは百数種となり、失われていく運命に飲み込まれて時は長い。
地表は砂嵐の季節だった。
生き物たちの多くは岩穴に潜み、ただ過ぎ去って行くのをじっと待つだけだった。
ここには多くはないが食料となるコケと良質タンパク質の虫がすんでいる。
洞窟の奥にいくと地下水が沸き出る小さな泉があった。
「毎日毎日入り口を塞がないように砂を出しても、あっという間だ、、、もういい加減に嫌だ!」
若者達がいかにもウンザリと言った。
「君達がそれでは困るな」年老いてはいるが体格がよく、白く長いヒゲを伸ばした男が言った。
「だって入り口がふさがっても、空気が入ってくる穴があちこちあるじゃないか」
「入り口に砂がこの岩山ほどになったらどうする。一晩で山になる事だって、
いくらでもあるんだぞ」
「、、、ん、ねぇ、この季節が終わったら、今度こそ移動しようよ。皆で助け合ってさ」
「それは良い意見だな。ではまず助け合う事からはじめよう。ほら砂をかき出せ」
「、、、ぅ分かったよ」
するとズズズーッと地響きがした。
「わっ地すべり?、、、」
「ヤクイか!?何でこんな時に」
入り口の先で、ズゥン、ズゥンと足音が響いた。
「!ヤクイだ!どうしたというんだ?」
若者たちと長老がこの洞窟の穴の入り口の先を見ているが、砂嵐で良く見えない。
「ヤクイよ、こんなに酷い砂嵐の日にどうしたのだ。狭いが入っておいで」
長老が声をかけた。
「ヤクイ、入っておいでよ」
くぅ〜と鳴くと、ズゥン、ズゥンと地響きをさせ、毛むくじゃらの巨大な生き物が、
狭い入り口を壊しながら入ってきた。
「ははっ!やっぱり崩れたな。ヤクイの力は凄いもんだ」
今文句を言っていた若者でさえ、ヤクイの登場に喜びを隠せないでいた。
「おぉ、よく来てくれたね。こんな時にいったいどうしたというのだ?」
長い睫がパサパサと微かに音を立てて、その睫の奥に優しく美しい目が輝いている。
子供たちがやってきた。
「ヤクイだぁ〜!」
「わ〜い」
皆がヤクイの巨体の周りを囲んだ。
「ヤクイよ。この砂嵐の中、私たちを探して来てくれたのだね。喉が渇いているだろう。
ヤクイに水を!」
「はい!今」
特大のバケツを若者達4人で掛け声をかけながらヤクイの前に持ってきた。
そこには貴重な水がいっぱいに入っている。
「ヤクイ、どうぞ飲んで」
ヤクイは首を傾けて、優しい目で皆を見ている。
「遠慮しなくて良いよ。もともとヤクイが教えてくれた水場じゃないか」
ヤクイは鼻をヒクヒクさせて水の匂いをかいだが、まだ飲まずに皆を見ている。
「私たちにも飲めって?」
「子供たち、もらいなさい」
長老が言うと、小さな子供たちから少しずつ飲んだ。
ヤクイはその様子を、母の自愛ような目で見ている。
「さぁ、どーじょ。ヤークイー!」
嬉しそうにくぅ〜と鳴いた。
小さな子供が言うと、喉が渇いていたヤクイは、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干した。
「おいしかったねぇ。ヤクイ〜」
ヤクイは側によってきた子供の顔をぺロリと舐めた。
「わっ!べちゃべちゃになったぁ」
大人たちも、なんとも言えず心が温かくなり、自然と笑顔になっていた。
子供たちは嬉しくて、毛むくじゃらのヤクイの身体に飛びついた途端、
フワァ〜っと砂埃がたったが、スッと空気穴に吸い込まれるように消えた。。。
「駄目だよ!砂ほこりがたつだろ」
若者が言うとヤクイは頭をすっと引っ込めた。
まるで謝っているようだった。
子供たちはキャーキャー言いながら、ヤクイから離れた。
それを確認したかのようにヤクイは入り口にズゥンと座り込んだ。
「入り口から砂が入り込むのを防いでくれるようだが、いつまでそこにいてくれるのかな」
長老が語りかけた。
するとヤクイは身体を横にすると、またくぅ〜と鳴いた。
「ヤクイ、お乳をくれるの?」
奥の方に固まっていた女たちがやってきた。
中には赤ん坊を抱いているものもいた。
「ヤクイが砂嵐を乗り越える為に蓄えたお乳は、栄養たっぷりだぞ。
病の者と身体の弱い者、子供たちに貰う事にしよう」
「これでまた間違えなく全員で、この嵐を乗り越えられる。ヤクイよありがとう」
言葉が分かるかのようにヤクイはくぅ〜と鳴いた。
支えられてやっと側に来た病人がいた。
ヤクイは長い睫をパサパサさせて見ていたが、長い毛足の中に隠れた、
雪のように白く、細く柔らかい毛を鼻で押し広げると、
鼻先をその者に持って行き、くぅ〜と鳴くと、ここに来なさいとでも言うように、
鼻先を動かした。
「ここに来なさいと言っているんだよ」子供が言う。
「、、でも」
「綺麗な柔らかい羽毛のような毛だ。ほら、おいでって言ってるよ」
「ヤクイありがとう、、、あぁ気持ち良い」
「ほらお乳も飲んで」器を渡された病人は口にすると、ゴクゴクと飲み干した。
「美味しい」
3Dヤクイは、ほとんど動かずに、この洞窟にいる生き物たちのために、
その不思議な力を惜しみなく注いでくれ、病の者は急速に元気を取り戻した。
緑のコケの種類も豊富に、しかもそこらじゅうフサフサになり、虫たちだけでなく
尻尾の生えた小動物まで、いつの間にか穴から入り込んで住み着いている。
砂漠の洞窟に、コケが密集し水が沸き出るが、空気穴からはいつも新鮮な空気が入って、
太陽が砂嵐の隙間から顔を出した時は、光の筋が何本も美しい天使のはしごとなって、
緑のコケを照らす。そこにはまた違う植物が自生する。
洞窟の外は乾燥しきった砂漠。
なんとも不思議な空間だった。
大人たちはヤクイの美しく優しい濃紺の目を、飽きもせず見つめてはため息を付いたり、
いろいろと話しかけた。
騒ぎすぎた子供が、岩の出っ張りから滑り落ちて大泣きをした。
若者が飛んでいって抱きかかえた。膝から血が流れている。
あちこち擦り傷と頭にたんこぶまでつくっていた。
ヤクイは驚いたように睫をパサパサさせると頭を起こして見ている。
若者は泣く子をヤクイの顔の前に連れて行った。
ヤクイは少し首を傾けると、子供の膝を柔らかい舌で舐めた。
「!痛い、、、あれ?痛くないや」
たんこぶもぺろりと舐めてくれた。
「ありがと、ヤクイ」
くぅ〜ヤクイは優しく鳴いた。
まるでもう心配ないねと言うかのようだった。
子供たちはヤクイがいるだけで、楽しそうに周りで遊び、寝る時はヤクイの毛にもぐりこむ。
不思議と熱くも寒くもない、なんとも心地よいのだった。
ともかく、この星一番の贅沢なベッドである事は確かだった。
滅びの惑星のヤクイ
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幾つもの文明がこの惑星の上で繁栄と崩壊を重ねていた。
環境破壊はすでに留まる所を知らず、過去の文明の証を飲み込んでいった。
今残る哺乳類たちは百数種となり、失われていく運命に飲み込まれて時は長い。
地表は砂嵐の季節だった。
生き物たちの多くは岩穴に潜み、ただ過ぎ去って行くのをじっと待つだけだった。
ここには多くはないが食料となるコケと良質タンパク質の虫がすんでいる。
洞窟の奥にいくと地下水が沸き出る小さな泉があった。
「毎日毎日入り口を塞がないように砂を出しても、あっという間だ、、、もういい加減に嫌だ!」
若者達がいかにもウンザリと言った。
「君達がそれでは困るな」年老いてはいるが体格がよく、白く長いヒゲを伸ばした男が言った。
「だって入り口がふさがっても、空気が入ってくる穴があちこちあるじゃないか」
「入り口に砂がこの岩山ほどになったらどうする。一晩で山になる事だって、
いくらでもあるんだぞ」
「、、、ん、ねぇ、この季節が終わったら、今度こそ移動しようよ。皆で助け合ってさ」
「それは良い意見だな。ではまず助け合う事からはじめよう。ほら砂をかき出せ」
「、、、ぅ分かったよ」
するとズズズーッと地響きがした。
「わっ地すべり?、、、」
「ヤクイか!?何でこんな時に」
入り口の先で、ズゥン、ズゥンと足音が響いた。
「!ヤクイだ!どうしたというんだ?」
若者たちと長老がこの洞窟の穴の入り口の先を見ているが、砂嵐で良く見えない。
「ヤクイよ、こんなに酷い砂嵐の日にどうしたのだ。狭いが入っておいで」
長老が声をかけた。
「ヤクイ、入っておいでよ」
くぅ〜と鳴くと、ズゥン、ズゥンと地響きをさせ、毛むくじゃらの巨大な生き物が、
狭い入り口を壊しながら入ってきた。
「ははっ!やっぱり崩れたな。ヤクイの力は凄いもんだ」
今文句を言っていた若者でさえ、ヤクイの登場に喜びを隠せないでいた。
「おぉ、よく来てくれたね。こんな時にいったいどうしたというのだ?」
長い睫がパサパサと微かに音を立てて、その睫の奥に優しく美しい目が輝いている。
子供たちがやってきた。
「ヤクイだぁ〜!」
「わ〜い」
皆がヤクイの巨体の周りを囲んだ。
「ヤクイよ。この砂嵐の中、私たちを探して来てくれたのだね。喉が渇いているだろう。
ヤクイに水を!」
「はい!今」
特大のバケツを若者達4人で掛け声をかけながらヤクイの前に持ってきた。
そこには貴重な水がいっぱいに入っている。
「ヤクイ、どうぞ飲んで」
ヤクイは首を傾けて、優しい目で皆を見ている。
「遠慮しなくて良いよ。もともとヤクイが教えてくれた水場じゃないか」
ヤクイは鼻をヒクヒクさせて水の匂いをかいだが、まだ飲まずに皆を見ている。
「私たちにも飲めって?」
「子供たち、もらいなさい」
長老が言うと、小さな子供たちから少しずつ飲んだ。
ヤクイはその様子を、母の自愛ような目で見ている。
「さぁ、どーじょ。ヤークイー!」
嬉しそうにくぅ〜と鳴いた。
小さな子供が言うと、喉が渇いていたヤクイは、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干した。
「おいしかったねぇ。ヤクイ〜」
ヤクイは側によってきた子供の顔をぺロリと舐めた。
「わっ!べちゃべちゃになったぁ」
大人たちも、なんとも言えず心が温かくなり、自然と笑顔になっていた。
子供たちは嬉しくて、毛むくじゃらのヤクイの身体に飛びついた途端、
フワァ〜っと砂埃がたったが、スッと空気穴に吸い込まれるように消えた。。。
「駄目だよ!砂ほこりがたつだろ」
若者が言うとヤクイは頭をすっと引っ込めた。
まるで謝っているようだった。
子供たちはキャーキャー言いながら、ヤクイから離れた。
それを確認したかのようにヤクイは入り口にズゥンと座り込んだ。
「入り口から砂が入り込むのを防いでくれるようだが、いつまでそこにいてくれるのかな」
長老が語りかけた。
するとヤクイは身体を横にすると、またくぅ〜と鳴いた。
「ヤクイ、お乳をくれるの?」
奥の方に固まっていた女たちがやってきた。
中には赤ん坊を抱いているものもいた。
「ヤクイが砂嵐を乗り越える為に蓄えたお乳は、栄養たっぷりだぞ。
病の者と身体の弱い者、子供たちに貰う事にしよう」
「これでまた間違えなく全員で、この嵐を乗り越えられる。ヤクイよありがとう」
言葉が分かるかのようにヤクイはくぅ〜と鳴いた。
支えられてやっと側に来た病人がいた。
ヤクイは長い睫をパサパサさせて見ていたが、長い毛足の中に隠れた、
雪のように白く、細く柔らかい毛を鼻で押し広げると、
鼻先をその者に持って行き、くぅ〜と鳴くと、ここに来なさいとでも言うように、
鼻先を動かした。
「ここに来なさいと言っているんだよ」子供が言う。
「、、でも」
「綺麗な柔らかい羽毛のような毛だ。ほら、おいでって言ってるよ」
「ヤクイありがとう、、、あぁ気持ち良い」
「ほらお乳も飲んで」器を渡された病人は口にすると、ゴクゴクと飲み干した。
「美味しい」
3Dヤクイは、ほとんど動かずに、この洞窟にいる生き物たちのために、
その不思議な力を惜しみなく注いでくれ、病の者は急速に元気を取り戻した。
緑のコケの種類も豊富に、しかもそこらじゅうフサフサになり、虫たちだけでなく
尻尾の生えた小動物まで、いつの間にか穴から入り込んで住み着いている。
砂漠の洞窟に、コケが密集し水が沸き出るが、空気穴からはいつも新鮮な空気が入って、
太陽が砂嵐の隙間から顔を出した時は、光の筋が何本も美しい天使のはしごとなって、
緑のコケを照らす。そこにはまた違う植物が自生する。
洞窟の外は乾燥しきった砂漠。
なんとも不思議な空間だった。
大人たちはヤクイの美しく優しい濃紺の目を、飽きもせず見つめてはため息を付いたり、
いろいろと話しかけた。
騒ぎすぎた子供が、岩の出っ張りから滑り落ちて大泣きをした。
若者が飛んでいって抱きかかえた。膝から血が流れている。
あちこち擦り傷と頭にたんこぶまでつくっていた。
ヤクイは驚いたように睫をパサパサさせると頭を起こして見ている。
若者は泣く子をヤクイの顔の前に連れて行った。
ヤクイは少し首を傾けると、子供の膝を柔らかい舌で舐めた。
「!痛い、、、あれ?痛くないや」
たんこぶもぺろりと舐めてくれた。
「ありがと、ヤクイ」
くぅ〜ヤクイは優しく鳴いた。
まるでもう心配ないねと言うかのようだった。
子供たちはヤクイがいるだけで、楽しそうに周りで遊び、寝る時はヤクイの毛にもぐりこむ。
不思議と熱くも寒くもない、なんとも心地よいのだった。
ともかく、この星一番の贅沢なベッドである事は確かだった。




