<花売り爺さんと少女と男>

  • 2008/03/02(日) 00:20:04

 <花売り爺さんと少女と男>


    
疲れた、、、、。 今日は、土星から見上げた夜空の日。
パターン化された夜空では、見上げる気にもならない。
    
遥か昔、我々の祖先が生まれた「奇跡の青き水の惑星・地球」があった、
それは太陽という恒星の第三惑星だった。夜空はその母なる地球から見上げた物になっている。
     
居住区にある自分のコンパートメントへ帰る。職場の玄関を出ると同時に我が家の前だ。我々がどこへ行くにも、この方法を取るようになって久しい。
    扉の前に立つと、個人識別と体調管理のデータ−を取る。

『お帰りなさいませ』と心の中に我家が語りかける。そして音もなく、私を認識した扉が開く。

適度に光度を落とした足元のライトが奥に向って、ついていく。
私が帰って来た時の設定は、『何か御用は?』となっている。うるさくあれこれと言われるのは嫌いだ。

『何か御用は?』

「調べたい事がある。地球の西暦18〇〇〜1〇07、イタリア人。ワルツ全盛のころの、笛吹きの〇〇〇〇だ。<彼と花>で、日常の一部を見せて貰いたい」

『分かりました。地球人〇〇〇〇氏ですね。彼と花は場面が多いですが?』

「特別な場ではなくて、ごくごく日常が見てみたい」

過去をみる。それも個人的な事に関しては、歴史上の有名人のものだけで、尚且つ限られた事柄だけである。当たり前だが規制が非常に厳しく、拒否される事が殆んどだが、このような事には寛大だ。      
      
部屋の照明が一箇所だけの淡い光になった。
私の手前の空間が歪み、1800年代のイタリアの何処かの町が現われた。 どうやら、夏という季節らしく空気が熱い。

永久凍土の大地の地下より取り寄せた氷に、『150億年の孤独』これが私の好みの酒。
グラスを手に取り、最高のソファーに身を沈めて前の空間を眺めた。

                       *

大きな荷車に花をいっぱいに積んで、花売りをしている爺さんがいた。細い体でよくこれだけの物を、引いてくるものだ。よく見ると、肩も腕も見事に余分な肉はなく筋肉がついている。我々の祖先は、まったくすばらしい肉体を持っていた。
    
大きなつばの帽子をかぶってはいるが、日焼けした顔にシワが深く刻まれている。
使い古された傷だらけのイスに腰掛けて、荷車に詰まれた花たちを見ていた。まるで花達から柔らかな微笑みを感じているかのように。

                       *
スッと場面が引くと、一人の男が陽射しを避けて、大木の幹に寄掛かり何気なく、その花売りの爺さんの方を見ていたが視線がその先へ。

輝く瞳の少女が、二股に分かれた石畳の、坂道の上から駆け下りて来た。その少女は花売りの前で、息を切らして何か言っている。
画面に木陰の男と、少女と爺さんが同時に入ってきた。

                       * 
「時間がないのかい?」爺さんが聞く。少女は、首を振った。
「じぁ、息を切らしてないで、わしは花たちとお嬢ちゃんを待っていたんだから、ゆっくり見てきなさい」
少女は頷きながら「、、ありがとう」と言って、荷車いっぱいの花を嬉しそうに見ると顔を寄せて、香りを楽しんでいる。

「お嬢ちゃん、花が好きなんだろう。なんども見かけているよ。でもこうして来てくれたのは初めてだね。ほぉら、花たちも嬉しそうだぁ」

爺さんのその言葉を聞いて少女は、少し驚いたように、花を見てから、
「本当、皆私を見て笑ってくれているみたい!」
「?!お嬢ちゃんにも分かるかい?わしも、そう見えるよ」
      
                        *                   
その時私は二人のいい笑顔の所為か、お気に入りの冷えた酒の所為か、フワッと暖かくなった気がした。
                        *
木陰の男は、特に何を考えるでもなく、その光景をじっと見ていた。

嬉しそうに花を見ていた少女が、少し困ったような顔になって爺さんを見上げた。
「どうした?今日の花の中に、お目当てが無かったかな?」

少女は首を振り下を向いて、しっかり握り閉めていた小さな手を開き前に出した。
「一生懸命お手伝いをして貯めたのだけど、これしかないの。今日はお母さんのお誕生日なの。お爺さんお花は高のでしょう?」

爺さんの顔が一瞬困ったような顔になったが、すぐにニコニコしながら、自分の座っていた使い古されたイスを少女の前によこすと、
「お嬢ちゃんの大切なお母さんの誕生日かい!それはおめでとう。少しわしと花の話を聞いて行ってくれないかい?」と言う。
少女は、ちょこんとそのイスに座って、膝の上に両手を置きニコニコしている。

爺さんはそれを見て嬉しそうに、荷車の端に軽く腰掛け背中を丸め首を少し落とし、少女の顔を覗き込むようにして話し出した。
「お嬢ちゃんのお母さんは、どんな花が好きかな?」

「お母さんは、赤いお花が大好きなの。去年だったわ。大きなお屋敷の前の通りにお花が落ちていたの。2階窓辺に真っ赤なゼラニュームが咲いていて、何かの拍子に枝が折れたのだと思うのだけど落ちていたから、家向ってすみませ〜んと声をかけたけれど、誰も出てこなかったから私、お母さんにと
思って貰って帰ってきてしまったの。
そしたらね、お母さんとっても喜んで、この花は丈夫なのよ。すぐ根がつくから増やせるかも知れないわ。ありがとうと言って抱きしめてキスしてくれたの。今は、うちの窓辺を飾ってくれる宝物よ」

「そうかぁ。真っ赤なゼラニュームの窓辺か、良いなぁ。お母さん、毎日花とお嬢ちゃんを見て幸せだろうな」
「!お爺さんお母さんね。花に水をやりながら、貴女達と私をこうして見ている事が幸せなのよと、花に話し掛けているのよ」
少女の緑の瞳が美しく輝いている。

                         *                     
木陰の男の上で、この大木の葉たちがおしゃべりをはじめた。風が出てきたようだ。
ここまで淡く甘い花の香りを、爽やかな風が運んで来た。
男はいつの間にか微笑んで、その話を聞いていていた。

                         *                  
爺さんは顔のシワを深くして、くしゃっと笑った。
「お嬢ちゃん、花は高いかねぇ〜、そうだな。野の花は無料(ただ)だもんな。でも花が好きな人に、ちゃんと一番良い時にと言うのが難しいもんなんだよ。ほらこの間の嵐のような雨の日は、どうしていたと思う?花たちの上にテントを張り、ロープでしっかり止め、わしと息子はびしょ濡れで、一晩中テントが倒れないように、ランプを持って見張っていたんだよ。
庭には自慢の大木があるんだが、彼には何度も助けて貰っているんだ、あんな嵐の日には枝を一杯に広げて、小さな花たちを護ってくれている。
あの日は彼が可哀想でしょうがなかったよ。枝が悲鳴をあげているんだ。
わしには遥かに届かぬからな。細い枝が耐え切れずに折れたよ。悲しくてな、彼の太い幹を雨水が流れてるが抱きしめてしまった。
するとな、雨水が流れているのにもかかわらず、わしが冷え切っているのを、知っているかのように温かかったんだよ。わしの所為で彼を冷やしてしまうと思って、慌てて離れたが大きく枝を広げて、わしさえも護ってくれていた。
生き物は皆互いに助け合ってと言うが、人はどれほど自然に護られて、生きているんだろうかなぁ」

少女は美しい瞳を、輝かせて聞いていた。
「素敵なお話だわ。私もその大木さんに抱きついてみたいわ!」
     
「お嬢ちゃんがかい?あぁ良いよ照れるだろうなぁ。きっといつもより早くなるに違いないな」
「えっ!なにが?」少女は首を少し傾けて爺さんを見ている。
     
「耳を当てると彼の血。水の流れが聞える。栄養分が入った水が木の中を流れているんだよ」
「まぁ、人と同じね」
「あぁ、人も自然界の一員だ。だが彼ら木だが人より凄いところがある」
「人よりも?」

爺さんは汗を拭きながら頷いた。
「そう、人は嫌な事、悲しい事、苦しい事があったら、逃げられるだろう。少し先に幸せがあったら走っていくだろう。彼らは、どんな事があっても、一歩も動けない。そう我が家のあの木も、あそこで何百年と生きているだろう。
人間同士の醜い戦いを何度も見てきただろう。傷められたことも何度もあるだろう。
わしも2度ほど、ここから逃げようと思った事があるよ。
でもその度に大地に根を生やして、堂々と生きている彼が”何処へ行く?”と聞いてくるんだよ。
”何処も同じだ。遥か向こうの山の森の木々は、人間の勝手な戦いで道を作る為に倒された。その後ここにあった森はなくなり、殆んどの私の友達は皆、寿命を全うする事無く、ある日突然大地から切り離されて、完全に息絶えるまで何日もほって置かれたり、まだ生きているのに焼かれていった。
でも今では向こうの森も、ここに残る私の友達も人びとに愛されて、大地に生きるものとして、共に幸せを分け合っている。ここには居るじゃないか貴方の育てた花を愛する人びとが”とね。
ちょっと長い話になった。年よりは、話が長いもんなんだ。悪かったね。
そうだ、お嬢ちゃんのお母さんへの花は、わしの話を聞いてくれた礼として、プレゼントさせてくれ。ちゃんと自分で買ったと言わにゃいかんよ。そうそう赤い花じゃな、これが良かろう。どうかな?」

少女はモジモジして困ったような顔をしている。
「これじゃ嫌か?どれが良い?」
「違います。お金が、、、」

すると花売りの爺さんが顔を上げた。
     
少女の後ろに、向こうの大木の木陰で休んでいた男が、いつのまにかやって来て、にこやかに少し首を傾けて挨拶をした。

「あそこまで風が花の甘い香りと、良いお話を運んで来てくれたので聞かせて頂いた。ちょっと作曲の構想に困っていたが、お二人を見ていて良い曲が書けそうなのでそのお礼です」とジャケットの内ポケットから、5線譜とペンを出した。

<可愛いお嬢さんのお母さん、誕生日おめでとう!お嬢さんと花売りのお爺さんに、とても良い話を聞かせて頂き、曲の発想が湧きました。お礼に、お二人にプレゼントさせてください>そしてサインをスラスラと書いた。
「お爺さんと私と、お母さんと、お嬢ちゃんと、、、!その庭の大木からで、5本でいいかな?後何かつけてください」と言った。

爺さんは、ちょっと変わった御人じゃなと思いながら、
「それはいい。お嬢ちゃんそうしなさい。ほら、礼を言って」
     
少女は驚いてどうしてよいか困った顔をしていたが、
「ぁ、ありがとうございます、、、あの、これしかないのです」と言いながら小さな掌を開いて見せた。

「ん?あぁ良いんだよ。私からのお礼なんだから、本当にありがとう。さっきからずっと見ていて、改めてこの花の美しい理由にも気がついた。愛情を込めて育てる人、その花を愛する人に囲まれて、嬉しいんだね」と音楽家が言うと、少女は嬉しそうに笑い。
爺さんは少し驚いたような顔をした。

「貴方にも嬉しそうに見えるかね」
「はい、こんなに花が美しく、嬉しそうだと感じたのは初めての事です。何かとても嬉しくなりますね」

小さな女の子は、単に紙に包んだだけの、真っ赤な花に顔を近づけて、すぅ〜っと香りを楽しむと、その音楽家を見上げて言った。

「お爺さんのお花でなくても、道端の花達も、いつも嬉しそうに咲いているわ。誰も見ていなくても。だって太陽が、月が、お星様が見ていてくれるもの。そして雨雲さんが乾きを潤してくれるの。お母さんがそう言うのよ」

「太陽が、月が、星達が見ていてくれるか。ん、私もそんな曲を書きたくなった。花をめでる人びとの世界は温かいものですね。舞踏会を華々しく飾る花たちは、人びとの華やかさに添え物のようなものだ。振り向いてくれる人も殆んどいない。数時間ほどで、終れば捨てられる運命の花。
私には花とは寂しいもの果かないものだったが、今日は本当にありがとう」
     
音楽家は一気にそれだけ言うと、さっさとさっきの大きな木の方へと歩き出し、あっという間に、坂の石畳に響くコツコツと言う靴音と共に消えていった。

少女は、お爺さんと顔を見合わせて笑った。
「あの音楽家さんにも、お花好きが移ったのかしら?!とても嬉しそう。ふふっ!またここで会えますね」
爺さんは笑ったまま頷いている。
「お爺さん、今日は本当にありがとうございました。早くこのお花を、お母さんに見せてあげたいので、また来ます」
「あぁ、わかったよ。あまり急いで転んでは大変だ。落ち着いて帰るんだよ。またおいで、待っているよ」
「お爺さんまた、お話を聞かせて下さいね。ありがとう、さようなら!」
「またいつでもおいで、花たちが待っているよ」
「はぁ〜い」

                       *                   
少女は音楽家とは、反対の石畳の坂を早足で登っていった。
その先には、真っ青な空に白い雲がぽっかりと浮んでいた。

爺さんの笑顔に幸せそうなシワがいっぱいになり、汗が一筋流れる。
「あぁ今日は、くなりそうだな。皆に水をやろう」と言うとブリキのジョーロをバケツ水の中に入れて、細かい水滴を気使いながらかけてやると、花達も気持ち良さそうに爺さんを見あげている。

                       *     
爺さんはバケツにジョウロを戻すと、古びたイスをゆっくりと座り、タオルで顔をふくと、甘く涼やかな風がすーっと触れ、向うの大きな木の葉をさわさわと鳴らして通り過ぎていった。

                       *                    
私は心地良く酔い、ウトウトしながら見ていた。
「ん、ありがとう。良い所を見せてもらった。彼ならばプレゼントの花束やら、花とのエピソードは幾らでもあるだろうに、思っても見ない良いものを見せてくれたありがとう」

薄暗い部屋に静かな声が
『それでは、今日はこれで宜しいでしょうか?』
    
私が頷くと、夏のイタリアの坂のある街角が消えた。
一瞬消えたはずの街角の花の香りを乗せた、そよ風だけがさぁーっと通り過ぎていったように感じた。

「気持ち良く酔った。疲れていたようだな。もう休むとするよ」
空になったグラスを目の前の宙に置くと、グラスは正面の暗闇の中に消えた。

『それでは、今日は”リラックス・ポッド”の中でお休みになりますか?』
「あぁ、そうしよう。爽やかな花の香りを用意できるかな?」

『はい。幾つかご用意しておりますので、テイスティングを』

ゆっくり立ち上がると、小さな溜息がこぼれた。
「花か、、」

歩く足もとの先に、次々とついていく淡い光は、通り過ぎると消えていく。
立ち止まると壁の一部がスーっと開いた。瞬間少し眩しいがすぐに光は変化し彼を包み込んできた。
その光に身を任せていると、ほのかに甘く爽やかな花の香りが霧のように降って来た。
    
「ん、これでいい。ありがとう、お休み」

『お休みなさい。良い眠りと、明日の良いお目覚めを、、、』

身体は、溶液の中に波紋を残し、静かな呼吸の音と共に漂っていた。
<温かい、良い気持ちだ。今日は、本物の良い夢が見られそうだ、、、>


                           
              ・・SORA・・

少々手直ししました。

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はじめまして

児童文学モドキを書いている者です。
ファンタジーなのか、SFなのか、不思議な雰囲気の美しいお話に心惹かれて読ませていただきました。

桜の散るテンプレも綺麗ですね。
長編のほうも少しずつ読ませていただきます。

  • 投稿者: 松果
  • 2008/03/24(月) 09:11:42
  • [編集]

はじめまして

松果さん、感想をありがとうございます!
古い話と言う雰囲気を作る為もあって、前後に未来っぽく付けてみました。どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

  • 投稿者: SORA
  • 2008/03/24(月) 12:32:40
  • [編集]

こんばんは、訪問ありがとうございます☆履歴から参りました。
真崎です。

ファンタジー系も手を出して書き始めたのですが・・・
なかなか、難しいですね。

童話・児童文学ですか・・・素敵ですね。
私はちょっと手が出せない部類ですが・・・(〃´∪`〃)
追々長編の方も読まさせてもらいます。
また、遊びに来ます。

では、また。

  • 投稿者: 真崎 沙良
  • 2008/04/03(木) 03:09:18
  • [編集]

真崎様、はじめまして!
読んでいただきありがとうございました。
 
音楽をやっているのですが、その時の作曲者からの発想で書いたものです。少女と花売り爺さんを中心に書いたので一応童話としたのですがショートショート?笑

どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

  • 投稿者: SORA
  • 2008/04/03(木) 06:37:02
  • [編集]

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